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写真集『TEBAJIMA』

KAW-5627

7,000円(税込7,700円)

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今、静かに消えようとしている離島の記憶を残したい

これまでに「飛田遊郭」「イタコ」の写真集をてがけた蛙企画。
本作は第3弾となる写真集で、徳島県の離島「出羽島(てばじま)」にフォーカスしています。

徳島県南部、俗に言う「四国の右下」に小さな島があります。
それは「出羽島」。ゾウリムシのような形をした離島です。
島の外周はおよそ4キロ。数年前の台風で島を回る遊歩道の一部が崩れ落ちてしまいましたが、1時間もあれば、島をぐるっと一周できるような小さな島です。
島の大半はこんもりとした小さな丘で、北側に開けた港のまわりに、100軒ほどの木造住居がひしめきあっています。
戦前戦後の一時期は、この小さな島に1000人以上の島民が暮らしていました。

この島は、他の地域と違うところがいろいろとあります。
例えば、島に自動車が一台もありません。その理由は、島があまりに小さく、車が通るような道が存在しないから(屎尿処理のための小型バキュームカーが一台だけある)。その代わり、住民が使っているのは「ネコ車」と呼ばれる手押し車。連絡船に乗って買い出しに行った島民が荷物をネコ車で運ぶ光景は日常でした。

集落の景観も独特です。
港を囲むように形成された集落には「あわえ」と呼ばれる細い路地がそこかしこに走っています。
その路地に建ち並ぶのは、江戸時代後期から昭和初期にかけて建てられた町家風の古民家。
その建物には、土庇(どびさし)や「ミセ」、出格子、炊事場に続く「通り土間」など、この地域特有の建築様式を見ることができます。

「ミセ」は折りたたみ式の雨戸で、上ミセを上げると庇(ひさし)に、下ミセを下げると縁台になる四国南東部で見られる独自の造り。この縁台で漁具の手入れをしたり、世間話に花を咲かせたりしていたのでしょう。
江戸後期から明治、大正にかけて形成されたこの町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選ばれています。

出羽島に人が住み始めたのは江戸時代のこと。その後、大正時代に出羽島の沖合で好漁場が発見されると、出羽島はカツオ漁の拠点として繁栄しました。島の古老によれば、港の周辺にはカツオ節工場が建ち並び、遠く高知から働きに来る人もいたそうです。

そして戦後になると、島の男性はマグロ船に乗り、世界中の海に飛び出して行きました。
70歳以上の島の男性に話を聞けば、ハワイ沖で時化にあって死にかけた話、大西洋や地中海、遠く南米まで航海した話がごろごろと出てきます。

その後、200海里水域の設定によって遠洋漁業が衰退すると、島の男性の多くはマグロ船を降り、内航海運やタンカー船の乗務員になるか、出羽島に戻り、沿岸漁業の漁師になりました。

このように、独自の文化と歴史を持つ出羽島ですが、今は静かに朽ちようとしています。
高齢化に伴う人口減少の結果、島民の数は40人を切りました。
残っている島民も、その大半が70歳以上です。
頼みの漁業は海水温の上昇などの影響で漁獲高が激減。
島の生活に憧れて来た移住者も、コロナ禍の中で多くが島を去りました。

重伝建の町並みは櫛の歯が欠けるように空き家になり、所有者の手が入らない建物は崩れ落ちています。
既に商店と呼べるものは一つもなく、自動販売機が2台残っているだけです。

人口減少社会に突入した日本において、山間僻地や離島の集落は、一部を除き、その多くは衰退し、消えていく運命にあります。
出羽島も、そんな離島の集落にすぎませんが、離島の限界集落であっても、そこで暮らす人々の営みがあり、堆積した時間の”地層”があります。

その断面を遺すため、制作チームは2022年9月から1カ月間、出羽島に家を借り、島で暮らしながら写真を撮りました。

ファインダーの向こうに見える風景は、何と言うことのない日々の営みにすぎません。
でも、「歴史」と言われるものの大半は、そういったとりとめのない日常の積み重ね。
放っておけば消えていくものだからこそ、あえて残す価値があるのではないか──。
このプロジェクトはこのような考えで立ち上げられたそうです。

撮影を担当したのは、「記憶」をテーマに写真を発表しているカメラマン、木村肇(きむら・はじめ)さん。
今回、木村さんは島の風景や島民を白と黒のモノクロームで撮影しました。それは出羽島での暮らしが始まってからの時間の流れと厚みを表現したいがゆえ。人々の肌の質感や潮に洗われた家々の表情は、白黒のほうがうまく表現できると感じたそうです。

この写真集が描き出しているのは、写真と言葉で再構築した、消えつつある島の記憶。
写真集を通して、島の豊かな記憶を感じ取っていただければと思います。

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●写真集の主なコンテンツ
01:プロローグ
02:島の人々
03:島の日常
04:島の未来
05:エピローグ
コラム1:日本の伝統建築に見る地域の多様性(建築家・隈研吾)
コラム2:NFTを用いた関係人口の増大(Next Commons Lab・林篤志)
コラム3:「集落を閉じる」が意味すること(あわえ・吉田基晴)

ページ数:300ページ 
サイズ:230 x 170 x 22 mm
エディション:1000
オフセット印刷:スーパーブラック
        シルバー輝
表紙:白エンボス加工
言語:日英併記
発行年:2024年7月
出版元:蛙企画

写真: 木村肇
編集・執筆: 篠原匡(蛙企画)
デザイン: 門馬翔 (TRAP STUDIOS)
翻訳: 竹内祐子、ホセ・クラビッホ
印刷・製本: 株式会社丸上プランニング
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