「楽園」を求めてモンゴル全土を巡った写真家が、
いつしか迷い込んだパラレルワールド
急速に都市化したウランバートルの様相も収録
富士山七合目にある山小屋で600日間暮らし、眼前で繰り広げられる神秘的で美しい
光景の数々を撮り続け、2010年に写真集『夜明け』(赤々舎)を発表した写真家・山内悠。
宇宙と地球の間を行き来した富士山での滞在のなかで、自分は紛れもなく宇宙の一部である、
ということを体得した山内が、まるで数奇な運命に導かれるように、次なる撮影の地に選んだのがモンゴルだった。
モンゴル最北の森林地帯でトナカイとともに暮らすツァータン族や、荒野で暮らすカザフ族の鷹匠、
ゴビ砂漠でラクダを遊牧する民族……。2014年より毎年モンゴルに通い、足かけ5年。
原始的な暮らしを営む遊牧民の在り方・光景に「楽園」を見た山内が、モンゴル全土、
さらには中国の内モンゴル自治区を巡ったこの旅で写し出した大いなる世界。
ページを繰るうちに、モンゴルの今を知ることのできる卓越したキュメンタリーという枠を超え、
体感するその世界はまさに「惑星」というスケールへと昇華していく。我々の棲むこの大地が、
宇宙空間に漂う剥き出しの「星」であることを思い出させてくれる。
表紙にも採用された夢幻的な一枚は、紆余曲折を経てようやくたどり着いた幻のトナカイ遊牧民、
ツァータン族の元で最初に撮れた写真だという。実際には紛れもなく現実の景だが、
あまりの美しさに思わず現実感を失ってしまう。
トナカイは意外にも、人類が最も古く家畜化した動物であるという。
地球の創世期を思わせる鉱物の世界や、現代の文明を享受する都市、そしてどこか既視感のある
近未来的な砂漠の風景……。これらのまるで異なる世界が、まさにパラレルワールドのように、
牧歌的な遊牧民の暮しと隣り合わせに存在している。
本作に収められた写真が、読者を時空を超えた旅へと誘う。砂漠に見えるドーム型の建造物はリゾートホテル。
■著者/山内悠
■発行/青幻舎
■判型/A4
■総頁/144頁
山内悠
1977年、兵庫県生まれ。長野県を拠点に国内外で精力的な活動を行っている。著書に『夜明け』(赤々舎)、
『雲の上に住む人』(静山社)がある。